【派遣社員のための社会保険講座】実はお得で充実している日本の社会保険の基本
「派遣社員のための社会保険講座」、初回の記事は社会保険の概要です。ちょっと小難しいですが基本を理解すると、のちの理解が楽になりますので少々お付き合いください。
実はお得で充実している日本の社会保険
日頃、テレビや新聞などで目にする報道では、日本の社会保険の至らなさや財政的な危機ばかりが取り上げられますが、日本は世界各国と比較しても、とても安い保険料で手厚い保障が受けられる優秀な社会保険大国です。
保険料が安い分、税金が投入され財政を圧迫しているは大きな問題なのですが、この社会保険の内容を把握せずに民間の保険加入を検討するのはとてももったいないことです。税金が投入されているということは、その分の保険料を自分が払わなくて済んでいるということであって、それだけ考えても民間の保険よりもお得だと感じませんか?
ほとんどのリスクをカバーしている日本の社会保険
まずはざっくりと日本の社会保険を理解してください。
死亡・障害・老齢・医療・介護などさまざまなリスクをまんべんなくカバーしていることがわかります。
これだけ見ても、すでに大半のリスクに対して社会保険で対応ができており、民間の保険だけで対応を考えるようなものではないことが理解できると思います。
派遣社員という働き方も「会社員」という区分であり、それぞれの保険の加入要件を満たせば強制加入になりますから、せっかく保険料を払っている以上は使えるものは使い、貰えるものはもらってきたいですよね。
そのためには全体像の理解と、それぞれの保険の仕組みを正しく理解しておくことが大事です。
会社員(派遣社員)と無職・自営業では保障の厚みが全く違う
ずっと正社員で働いていて社会保険について考える機会の少ない人に比べると、派遣社員として働くのであれば、より正しく社会保険の仕組みを理解する必要があります。
派遣先が変わったり、次の派遣先が決まるまで間隔が空いたりと社会保険の仕組みをきちんと理解していないと損をする場面が多いからです。
まず、年金と健康保険は会社員(派遣社員)なのか、無職・自営業なのかによって保障や保険料にずいぶん違いがあります。
国民年金と厚生年金の違い
国民年金は無職・自営業の人向けの年金ですが、保険料が安い分、支払われる年金額も低く、国民年金の年金額のみで生活することはなかなか難しい年金額です。
会社員(派遣社員)向けの厚生年金は、国民年金+厚生年金という組み立てであり、保険料が高いこと、また保険料の半分は事業主が負担することから国民年金よりも多くの年金額が給付されます。
保険料の半額は事業主が負担してくれるので、自分の払っている保険料の割に保障は手厚いというお得な制度です。
健康保険と国民健康保険の違い
派遣社員を含む会社員が加入する健康保険は次の2つの種類があります。
- 協会けんぽ(中小企業の従業員とその家族)
- 組合健保(大企業が独自に運営する健康保険組合)
いずれも事業主が保険料の半額を負担するため割安な保険料であること、医療費の3割自己負担だけでなく、高額療養費や傷病手当金など、まさかの時の制度も手厚い公的医療保険です。
対して自営業者や学生などが加入する国民健康保険は事業主負担がないために、一般的に健康保険よりも保険料が高く、保険主体となる自治体によって保険料の差があるとともに、傷病手当金の制度がないため、大きなけがや病気で働けない期間が発生したときのために何かしらの備えが必要です。
健康保険(会社員・派遣社員)と国民健康保険(無職・自営業)の保障の厚みの違い
健康保険にみる、会社員(派遣社員)と無職・自営業の保障の違い
上の表ですが会社員(派遣社員)向けの健康保険、無職・自営業向けの国民健康保険の保障の違いを分かりやすく示しています。
高額療養費制度は健康保険(会社員・派遣社員)、国民健康保険(無職・自営業)ともに利用できる
皆さんもよくご存じの健康保険は、業務上の事由以外で病気やけがになった際に、医療費の7割を健康保険組合が負担し、自己負担が3割ですむというありがたい仕組みです。
さらには、がんなど病気やけがの中でも手術や入院、その後の治療などで多額の医療費が発生する場合に、生計への大きな負担感を払しょくするために設けられているのが高額療養費制度です。
高額療養費制度については会社員向けの健康保険、無職・自営業向けの国民健康保険両方とも利用できる制度です。
●高額療養費制度のポイント
- 年収約370~約770万円の方の場合、1か月の医療費が100万円かかったとしても、実際の自己負担額は87,430円(80,100円+(医療費-267,000)×1%)で済む
- 1回分の窓口負担では上限額を超えない場合でも、複数の受診や、同じ世帯の方の受診の自己負担額合算が一定額を超えたときは、超えた分が高額療養費として支給される
- 過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回該当」となり、上限額が下がる(年収約370~約770万円の方の場合 44,400円)
傷病手当金は健康保険(会社員)しか利用できない
傷病手当金は病気休業中に勤務先から給与の支払いがない場合に、最長1年6か月間、一定額が支給される仕組みです。
傷病手当金は健康保険(会社員・派遣社員)しか利用することができず、国民健康保険(無職・自営業者)の加入者は、その分を必要に応じて民間の保険などで補うしかありません。
冒頭の表のとおり、健康保険(会社員・派遣社員)は加入者が支払っている保険料と同額を事業主が別に支払っており、事業主負担のない国民健康保険に比べると財源が潤沢なため、傷病手当金という「働けなくなった時の収入補償」という保険機能をつけることができるわけです。
●傷病手当金の支給条件
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業
- その病気やけがが原因で仕事に就くことができない
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったとき
- 休業した期間について事業主から給与の支払いがない
●支給される期間と金額
- 支給開始した日から最長1年6ヵ月支給される
- 1日につき「標準報酬日額」の2/3の金額が支給される(非課税)
※詳細は協会けんぽのホームページをご確認ください
※協会けんぽの標準報酬日額の早見表はこちら
※標準報酬日額=標準報酬月額÷30日 、「報酬」は手当なども含まれますが年3回以下の賞与は含まれません
厚生年金(会社員・派遣社員)と国民年金(無職・自営業)の保障の厚みの違い
年金は上の表のとおり、「死亡」「障害」「老齢」の3つのリスクに対応した保険です。
厚生年金(会社員)と国民年金(無職・自営業)の違いを理解するために、年金の「死亡」保障について説明します。具体的には遺族に年金が支払われる遺族保障ということになります。
前回も登場した上の表ですが、良く言われるように年金は「二階建ての構造」になっています。
無職や自営業の方は一階部分の国民年金、あまり意識しませんが会社員は国民年金+厚生年金の2つの年金の保険料を支払っており、当然、国民年金+厚生年金分の年金額が受給できます。
国民年金の遺族基礎年金はいくらもらえるのか?
国民年金の保険料を支払っている人が亡くなり、条件を満たせば、遺族に遺族基礎年金という年金が支払われます。
遺族基礎年金は亡くなられた方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受け取ることができる年金です。よって「子」がいないと支給されません。
【対象者】
- 死亡した者によって生計を維持されていた「子のある配偶者」
- 死亡した者によって生計を維持されていた「子」
※子とは
- 18歳になった年度の3月31日までの間にある子
- 20歳未満で、障害等級1級または2級の障害状態にある子
- 婚姻していないこと
【支給要件】
- 被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき
- 平成38年4月1日前の場合は死亡日に65歳未満であれば、死亡日の属する月の前々月までの1年間の保険料を納付しなければならない期間のうちに、保険料の滞納がないこと
老齢年金は保険料を納めている期間が25年以上でないと年金が支給されませんが、遺族年金は25年に満たなくても死亡日の属する月の前々月までの1年間の間に保険料の未納がなければ満額の年金額が支給されます。
【年金額】
遺族基礎年金は死亡した者によって生計を維持されていた「子」か「子のある配偶者」に支給されますが、この人数によって加算額があるシンプルな仕組みです。
779,300円+子の加算
- 子の加算 第1子・第2子 各 224,300円
- 第3子以降 各 74,800円
厚生年金の遺族厚生年金はいくらもらえるのか?
遺族基礎年金(国民年金)が亡くなった加入者の子の養育を目的としていたのに対して、厚生遺族年金は亡くなった加入者によって生計を維持されていた妻や子など広い範囲の生活維持を目的とした年金です。
【対象者】
- 死亡した者によって生計を維持されていた「妻」
- 死亡した者によって生計を維持されていた「子、孫」 ※(18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の者)
- 死亡した者によって生計を維持されていた「55歳以上の夫、父母、祖父母」
※30歳未満の子のない妻は、5年間のみの支給
※子のある配偶者、子は遺族基礎年金も併せて受けられる
【支給要件】
- 被保険者が死亡したとき、または被保険者期間中の傷病がもとで初診の日から5年以内に死亡したとき
- 平成38年4月1日前の場合は死亡日に65歳未満であれば、死亡日の属する月の前々月までの1年間の保険料を納付しなければならない期間のうちに、保険料の滞納がないこと
- 老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる者が死亡したとき
【年金額】
遺族基礎年金と違い、遺族厚生年金はこれまで支払ってきた保険料によって年金額が違います。
平均標準報酬月額×1000分の7.125×加入期間×3/4(75%)=年金額
老齢厚生年金が支給されるには300月(25年)の加入月数が必要ですが、遺族厚生年金では早くして亡くなってしまい、死亡時までの加入期間が300月(25年)未満だった場合は、300月とみなして計算した額が支給されます。
ですので、加入期間が300月(25年)未満の場合は平均標準報酬月額×1000分の7.125×300月×3/4(75%)=年金額となります。
※1000分の7.125×300月×3/4(75%)=1.6なので、平均標準報酬月額×1.6で年金額が計算できます
まとめ
日本の社会保険の全体像や、会社員(派遣社員)として加入する健康保険・厚生年金と、無職・自営業として加入する国民健康保険・国民年金の保障の厚みの違いについてご説明をさせて頂きました。
「病気なんてしないから健康保険なんて加入しない、保険料の無駄だ!」
とか、
「年金なんて将来貰えるかわからないし、いま必要だと思わないから加入しない、保険料の無駄だ!」
なんていう暴論や、
「信用できないお役人がやっている社会保険なんかに保険料を払うより、民間の保険で必要な保障だけそろえた方がいい」
なんて言う暴論が、いかに無謀なものかお分かりいただけたかと思います。
どうにも小難しくて理解する気の起きない社会保険ですが、基本だけでも知っているだけでずいぶん応用の効く知識になるのです。
今後、「派遣社員のための社会保険講座」では、社会保険の知識もベースにして、生命保険や医療保険、がん保険といった民間の保険にどのようにかかわっていくべきかもお話していきたいと思っています。