【派遣会社営業担当のクレーム対応報告】「静脈認証なんて聞いてない!」と示談金を求める派遣社員Oさんのクレーム対応

【派遣会社営業担当のクレーム対応報告】「静脈認証なんて聞いてない!」と示談金を求める派遣社員Oさんのクレーム対応

私の部下の担当派遣社員として派遣先のD社に勤務してくれている40代女性のOさんですが、「静脈認証の入退館システム使用しているが、Oさんがその登録を拒否するのでどうにかしてほしい」という派遣先からのクレームがありました。

その際の経緯や対応について、営業日報形式でご紹介します。

派遣会社営業担当が、どんな事を考えて問題解決をしているのかがお分かり頂けます。是非ご覧ください。

クレーム経緯

●D社のコールセンターの大量募集案件があり、当社は20名発注を受け、登録スタッフからの人選や求人広告からの応募により、なんとか定員20名の候補者を集めた

●派遣社員Oさんは求人広告を見て応募をしてきてくれた

●D社では「職場見学」と言われるような実質的な派遣先での選考はなく、派遣社員Oさんは当社の選考によりD社での就業を開始することになった

●当社での選考面談の中では、派遣社員Oさんはとても人当たり良く朗らかで、コールセンターの経験もあり、問題なくD社に派遣できると判断した

●D社での就業スタートから数日は、会議室での座学の研修であった

●数日後から、実際の就業フロアに移り、先輩社員の電話対応の様子を聞いたり、簡単な内容の電話から受けてみるという研修カリキュラムであった

●就業フロアに入退室するにあたり、入退室システムが静脈認証であり、新たに入社したメンバー全員にシステム登録をお願いしたところ、派遣社員Oさんのみ「静脈認証なんて聞いていない。個人情報なので登録できない」と反論があり、入退室が出来なければ業務についてもらうこともできず、困りきった派遣先担当者から、「どうにかしてほしい」との連絡があった

●私の部下の担当派遣社員の話であり、経験の浅い部下だけでは対応が難しいと感じ、同行をすることした

対応のポイント

部下から話を聞くに、派遣先から聞く状況と、選考面談でOさんと話した時の印象にずいぶん違いがあり戸惑っているとのことで、Oさんにあって話すまで真意はわかりません。

静脈認証を取られることで、それほどの支障があるようにも思えませんが、生体情報は個人情報保護法で個人情報とされており、D社が静脈認証システムを使っていることを知らず、Oさんを始め、派遣社員の皆さんに事前に伝えられていなかったのは事実なので、まずはお詫びをしなければいけません。

あわせてOさんに事情を聞き、静脈認証システムへの登録をしてもらうよう理解をしてもらう必要があります。

また、私が現場に向かうまでOさんは休憩室で待機をしているようで、その後の話し合いの時間含めて、派遣先に請求ができるのか、Oさんに給与支払いをするのか、といったお金の問題も頭に置いた対応が必要です。

対応経緯

 派遣社員Oさんとの面談

私と部下の二人でOさんと面談をすることにしました。

部下曰く、選考面談の時に比べて表情は固く、別人のように印象が違うとのことで、かなり嫌な予感がします。

私から、現状の確認と面談の主旨を話しました。

  • 入退室の静脈認証システムについて、私どもが把握できておらず、案内ができていなかったのは申し訳なかった
  •  Oさんは静脈認証システムの登録は個人情報の提供だと理解していると聞いたが、その理解で間違いないか?

私からのお詫びと質問に対して、Oさんはいきなり激昂した様子で言いました。

  • 静脈認証の件は聞いていない
  • ネットで調べたら、生体情報は個人情報にあたると書いてあった
  • 御社は派遣社員が派遣先で直接、個人情報の提供を強要されるような行為を許すのか?

生体情報は個人情報保護法で個人情報と指定されており、Oさんの主張はもっともなことです。

しばらくご案内ができていなかったことをお詫びし続けました。

Oさんの怒りがあまりにおさまらないため、不自然に思いました。

そのため、間合いを見て、Oさんに質問をしました。

  • Oさんがお怒りなのは、生体情報を取られることなのか?それとも生体情報を提出する必要があることを当社が案内できていなかったことなのか?
  • 生体情報の提供自体が問題ということであれば、参考までに理由を教えてほしい

すると、Oさんは「生体情報を提供するのは支障はないが、事前に案内のなかったことに憤りを感じている」とのこと。

続けて私から質問しました。

  • であれば、事前に案内ができていなかったことはお詫びする
  • しかし、生体情報の提供がなければ、入退室が出来ないので、D社での就業ができなくなってしまう
  • あらためて、お詫びとともに生体情報の提出をお願いするが、協力をお願いできないか?

するとOさんはさらに激昂した様子で「今さら案内と言われても納得できない。生体情報は提出しない」といいます。

ここまでのやりとりで、Oさんの考えがなんとなくわかってきたので、最後に質問しました。

  • そうなるとD社での就業ができなくなるが、どうお考えか?

するとOさんは答えました。

「案内がなかったのは御社の責任なのだから、生体情報を提出しないと働けないなら、契約期間分の給与を保証して欲しい」

ここが着地点のようです。

そこで、Oさんに次のように伝えました。

  • 即答はできないので、一旦結論を預からせて欲しい
  • 生体情報を提出できないとのことなので、D社での就業は難しく、契約期間も残っているので、本日これからあらためて連絡をするまでは自宅待機として欲しい

自宅待機ということは休業補償の対象となり、早期に打ち手が必要になります。

とはいえ、結論を急いで下手な対応をするよりは、と一旦機会を改めることにしました。

同期の派遣社員からの事前情報

OさんはD社の大量募集に対し、当社から同時に20名スタートしてくれた派遣社員の一人でした。

営業担当である部下が、同期の他の派遣社員と就業フォローの面談をしたところ、何人かの派遣社員から気になる話があったというのです。

20名も同時にスタートしますと、いくつかのグループに分かれて仲良しグループができ、一緒にお昼を食べたりするようです。

Oさんも5人ほどの女性派遣社員のグループに入っていたようなのですが、そのメンバーだったAさん、Bさんの二人が、D社での入退室システムへの生体情報登録の際に、たまたまOさん含めて一緒にいたようなのです。

列になって順番に一人ずつ入退室システムに登録をしていたところ、一緒に並んでいたOさんに順番が回っときた途端に、それまで雑談をしていたOさんが突然大きな声で、

「静脈認証なんて派遣会社から聞いていません!個人情報なので私は登録できません!」

といい出し、AさんもBさんもびっくりしたそうです。

騒ぎに慌てたD社社員に「ちょっと別室で話しましょう」と促されて移動する間際にAさんとBさんに向かってボソッと呟いたそうです。

「こうやってゴネるのよ」

派遣社員Oさんとの2回目の面談

AさんとBさんの話を信じるのであれば、当社の落ち度はあったものの、元々まともに働く気はなく、何かのきっかけで今回のように補償を求めることを考えていたのかもしれません。

まだ確信は持てませんが、慎重な対応が必要です。

当社の法務部とも相談の上、Oさんとの2回目の面談臨みました。

入退室システムへの登録ができなかったこともあり、Oさんには自宅待機をしてもらっていたため、当社の会議室での面談となりました。

硬い表情のOさんを招き入れ、部下とともに面談を始めます。

まずは私から話し始めました。

  • 入退室システム登録のための生体情報の提供をしないことでD社での就業を自宅待機としてもらっているが、あらためて生体情報を提供してD社で就業を再開するといったお考えのかわりはないか?

Oさんは「御社が事前に案内をしなかったことで、こんな状況になっているのだから、D社では働きたかったが、それはできないと思っている」との返答です。

私からの話を続けます。

  • 前回の面談では当社の事前の案内不足でD社での就業ができなくなったのだから、契約期間中の給与を全額補償して欲しいとの要望であった。本日はその点への当社の見解をお伝えしたい
  • 雇用契約が残っており、当社としてその責任を果たすため、同じような条件の別の派遣先で就業をしてもらおうと考えている
  • ただし、昨日本日含め、自宅待機となっている期間については、労働法規に従い、休業補償として平均賃金の6割を支給しようと考えている
  • ついては次の派遣先について協議をしたい

全く予想していなかった答えなのか、Oさんはいきなり逆上しました。

興奮した様子でしたので、話は行ったり来たりしましたが、要点をまとめるとOさんの主張は次の通りです。

  • D社で働けなくなったのは御社のせい、いわば私は被害者なのに、なぜ他の派遣先で働くという話になるのか?
  • 休業補償が平均賃金の6割だなんて話は聞いたことがない
  • 別途、慰謝料を請求しようと弁護士と相談している
  • 契約期間の給与を満額払わないのであれば、即訴える

かなり強気の姿勢ですが、相手が「訴える」といってきたときの私のスタンスは一貫していて、「個人の権利なので止めも勧めもしない」ということです。

お詫びすべきは、事前にD社での就業にあたり、生体情報の提出が必要であったことを案内できていなかった点ですし、生体情報さえ提供すれば、改めてOさんがD社で就業を継続する機会を提示をしています。

また、自宅待機となった部分については法に則って休業補償をするとお伝えしていますし、当社の案内不足をきっかけにD社での就業の出鼻を挫いた代わりに、別の派遣先を準備することで当たり前に雇用契約を守るとお伝えをしたわけです。

つまりOさんの主張の通りに、契約期間中の給与全額を支払ったり、慰謝料を払ったりする必要はないと考えました。

これはOさんの同期の2人からのお話があったからの対応ではなく、そのような話がなかったとしても同じようなご案内します。

激昂するOさんに私は次のようにお話をしました。

  • 訴えるという件や、慰謝料を請求するという件はOさんの判断なので、ご自身でご判断をして頂ければ良いと考えている
  • それによって当社の考えは変わらない
  • 事前にD社での就業にあたり、生体情報の提出が必要であったことを案内できていなかった点はお詫びし、真摯に反省をしている
  • Oさんは生体情報の提出をされないとのことではあったが、D社と話し、入退室システムの問題さえ解決すれば就業を再開できる段取りは整えていた。しかしOさんのご判断はD社での就業は継続しないということであったので、当社として残る雇用契約の責任を果たす意味で別の派遣先での就業のお話をしている
  • 次の派遣先が決まるまで、当社としての雇用契約の責任を果たす意味で、自宅待機の期間は法にのっとって休業補償を行う

相変わらず、激昂するOさんは「納得がいかない」「誠意がない」を繰り返しますが、私も同じ話を繰り返します。

このような状況で最もいけないのは、相手に根負けして譲歩したり、主張は変えないまでもニュアンスで妥協してしまうことです。

相手に伝える主張はきちんと準備した上で話をし、一度話したら主張を曲げない、妥協しないという強い意志が必要です。

面談を開始してから2時間も経った頃、根負けしたのか、Oさんの話のニュアンスが変わり始めました。

  • 今回のトラブルでお互い信頼関係がなくなっているし、派遣先を変えての就業継続はお互いにとって難しいのではないか?
  • しかし、今回のトラブルの原因は御社で、契約期間も残っているし、何の補償もないのはあり得ないと思う
  • 私もある程度は譲歩するので、それなりの誠意を見せてほしい

つまりOさんは、これ以上自分の主張をしてもこちらが全く折れないので妥協点を探り始めたのです。

Oさんの話しぶりも冷静になり、これまでの激昂したときの支離滅裂とも思える話しぶりから考えると別人のようです。

同期のAさん・Bさんの話しを鵜呑みにするわけではありませんが、もしOさんが派遣の仕事で就業を開始しては何らかのきっかけでトラブルを起こし、そのたびに派遣会社に補償や示談金を求めるような人であった場合、本当に裁判を起こしたり、そこまでしなくともあっせんや労働審判などをしても時間がかかるばかりです。

当社としても、Oさんの主張が正しいかどうかは別として、あっせんや労働審判は調停を前提にしているためかならず何かしらの妥協、要するにお金を支払うことになり、裁判などになると判決がどうなるかは別として非常に手間と時間がかかります。

Oさんが妥協点を探すつもりなのであれば、当社としても落ち度があった話でもありますし、幾ばくかのお金で解決できればそれに越したことはありません。つまり示談金です。

そこで私は次のように話しました。

  • 「お互い信頼関係がなくなっているし、派遣先を変えての就業継続はお互いにとって難しいのではないか?」とのことだが、私はそう考えていない。Oさんが違う派遣先で就業することになったら、部下に変わって私が精一杯ご支援する
  • 誠意とのことだが、Oさんは違う派遣先での就業は希望せず、今回の雇用契約の件を示談で解決しようというお考えか?

すぐにOさんの誘い水にのっては、こちらの足元を見られてしまいます。まずは原則論にのっとって対応するとともに、Oさんの考えを確認します。

するとOさんは「私が違う派遣先で就業するというのは筋違いな話、お互いの考えが全く平行線なので別の解決手段がないかと思っただけ」と言います。

続けて私から質問します。

  • 別の解決手段とのことだが、当社は想定していない。具体的には金銭での解決をお考えだと思うが、Oさんはどれくらいの金額をお考えか?

するとOさんは就業期間分の給与総額の80%の金額を口にしました。

当社からすると全く検討にも値しない金額でしたので、拒否し、別の派遣先に移って頂くという元々の話に戻します。

それからも30分ほど掛け合いのようなことを繰り返し、らちが明かないので一旦持ち越しとしました。

その後も一週間ほどメールでやり取りをしましたが、最終的には就業期間分の給与総額の10%程の金額で示談となりました。

これは示談ですので、法にのっとった休業補償ではなく、Oさんとの話し合いの末、「雇用契約自体を就業初日のみの雇用契約に短縮する」という示談を行う結論となり、その示談金として支払ったものです。

そのため「就業期間分の給与総額の10%の程の金額」というのもあくまで目安であって、あくまでお互いが妥結した金額ということになります。

私のホンネ

部下のミスがあったとはいえ、ずいぶん高い勉強代を支払うことになってしまいました。

Oさんが元々悪意を持って今回のトラブルになったのかは最後までわかりませんでしたが、この手の派遣会社から金銭をせしめようという手合いは割と多くいて、色々な派遣会社を渡り歩くようにトラブルを起こしては示談金をせしめています。

手口も巧妙なので、防ぐのが難しく、派遣先にもご迷惑をおかけするので、派遣会社としてはかかわりたくない人たちです。

今回は違いましたが、過去には反社会勢力とのつながりを匂わせつつ、こちらを脅してくるような手合いもいて、新人の営業担当にはなかなか対応が難しい相手なのです。

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コメント

  1. 田中 より:

    はじめまして、派遣の営業マンをしているものです。いつも様々なケースへの対応を参考にさせていただいております。ありがとうございます。記事になっていないケースで困っていることがありまして、私個人的な話ではありますが、少しお知恵を貸していただけないでしょうか。どうぞ、よろしくお願いします。

  2. foo より:

    コメントありがとうございます。ご相談とのことで、TwitterからDMを送っていただけますか?トップ画面の一番下にTwitterを設置しています。