【続編④】【派遣会社で働く営業担当のための基礎知識】派遣先に闇金から取り立ての電話があったときの対応方法
派遣社員Nさんに、いま自分が置かれている立場を伝える
Nさんは私にたくさんの嘘をつきました。
- 金融業者から融資を受けるにあたって派遣先R社の名前は使っていない
- 金融業者にはきちんと返済をしている
- 金融業者から派遣先R社や、派遣会社には連絡しないよう抗議する
いずれも時間が経てばすぐにバレてしまうような、その場逃れの嘘ばかりです。
そんなNさんが言う、「R社にも御社にもこれ以上迷惑をかけないために、給与を前借りして返済に充てさせてもらえないだろうか?」と言う都合の良いお願いなど、叶えられるはずもありません。
Nさんに自分の置かれた立場を正しく理解してもらうため、心を鬼にして厳しく指摘をしなければなりません。
- Nさんには数々嘘をつかれてたと思っている。申し訳ないが、私はもうNさんを簡単に信用することができない
- 給与の前借りというが、それは当社から新たに借金をするのと同じことだと理解しているか?
Nさんはうなだれるばかりで返事はありません。続けて私から畳み掛けます。
- 金融業者からの融資を受ける際に勤務先をR社と偽り、しかも業務使用を前提に渡されているR社の名刺を証拠として渡したことの重大さを理解しているか?
- 一般常識としてありえないことだし、当社の就業規則にも抵触し、雇用契約を維持できないと思っている
- 派遣先にも金融業者から取り立ての電話が入っている以上、R社の社員を名乗って融資を受けたことは報告せざるをえない
- R社から即時に契約を打ち切られてもおかしくない状況で、給与の前借りなどが出来ようはずがない
私からコテンパンにやり込められて、Nさんは言葉がありません。
私にはもう1つだけ疑問がありました。
いくら闇金業者とは言え、「R社に勤めているという自己申告と、名刺だけではたして融資をしてくれるものなのか?」ということです。
まだ、なにか確認できていないことがあるのかもしれません。
- R社に勤めていると名刺を渡して融資を受けたということだが、本当にそれだけで融資を受けられたのか?
- まだなにか私に話してもらっていないことがあるのではないか?
- Nさんが話してくれないのであれば、金融業者から連絡があったときに直接聞く
するとNさんは観念したように話しはじめます。
- 実は融資を受けるときに、R社から貸与されている入館証(社名・Nさんの指名・顔写真の記載のあるもの)を社員証だと偽って金融業者に示した
私は頭を抱えます。
R社の社員として有利な融資を受けるために、R社の社員と偽り、名刺を渡しただけでなく、入館証を社員証と偽って融資を確実なものにしたというのです。
ここまでくると、闇金業者から見てもかなり悪質な客で、詐欺といってもいいのではないでしょうか。
真っ当な消費者金融であれば訴訟問題になるのでしょうが、後ろ暗い商売をしているのでそうもいかず、勤務先に取り立てを試みたのでしょう。
なんにせよ、Nさん個人の問題であり、派遣先のR社にも当社にもなんの責任もないことです。
これまでのヒアリングをまとめると、Nさんは故意により派遣先R社と当社に次のような不利益を与えています。
- 金融業者からの有利な融資を引き出すために、派遣先であるR社の社員であると偽った
- 金融業者にR社の社員であると信用させるため、業務使用を前提に渡されたR社の名刺を渡した
- 重ねてR社の入館証を社員証と偽り、金融業者に提示した
- R社の名刺や入館証を融資に利用したのは、業務外使用であり認められていないこと
- 当社の派遣社員であるNさんがこのような故意による事案を起こしたことにより、当社とR社との信用問題となる。当社は営業上、大きな不利益を被ることとなる
Nさんはその内容に異論はないようで、うなだれつつも頷いています。
重ねて、いまNさんが置かれている立場を説明します。
- 当社の就業規則には懲戒事由として「故意または過失により、災害または営業上の事故を発生させ、使用者に損害を与えたとき」と定められており、今回の件はこの事由にあたると考えている
- 懲戒にもいろいろな種類(訓告・けん責・減給・出勤停止・諭旨退職・懲戒解雇)があるが、内容が悪質であり、重い処分を考えている
- Nさんはこの状況を正しく理解してもらえているだろうか?
お金に詰まって冷静さを失っているとはいえ、当社から前借りをして借金をどうにかしようと考えていたくらいですから、自分が明日の仕事さえ危ぶまれる状況だと聞いて青ざめています。
- 当社として、この状況でR社になんの説明もなく明日以降Nさんを出勤させるわけにはいかず、とりあえず明日は自宅待機をしてほしい
- 明日自宅待機をすることは私からR社に伝えるとともに、今後について明日打ち合わせたいと考えている
- Nさんはこれ以上R社や当社に金融業者から連絡が来ないように返済の段取りをしてもらった方がいいのではないかと思っている
Nさんは不安そうに「これからどうなるんでしょうか?」と聞いてきます。
私は答えます。
「Nさんに意地悪をするつもりは全くないが、Nさんが思っている以上にNさんがしたことは悪質で、このままだとNさんがR社で就業を続けられないだけでなく、当社も取引中止になってしまうかもしれない」
「お金のこともあり、Nさんは仕事を続けていきたいと思っているだろうが、簡単に解決できる問題でもなく、結論は甘んじいて受け入れてほしい」
「いま、Nさんができることは問題の発端になった借金問題を解決することだと思うので、できる限りの自助努力をしてほしい」
Nさんはひどく落ち込んだ様子で頷くのでした。