【続編⑩】【派遣会社営業担当のトラブル対応報告】背中に大きな刺青の入ったQさんの対応報告
Qさんとの3回目の面談
朝一番に出勤してきたQさんを呼び止め、Mさんとのいざこざは私に仲裁を任せてほしいと切り出した私にQさんは答えます。
- 所長(私のこと)に間に入ってもらっても別に構わないが、Mさんから喧嘩を売ってきたので買っただけ。自分は悪いことをしたと思っていない
- そんな主張は聞き入れてもらえないだろうから、自分でMさんとカタをつけて、仕事を辞めようかと思っていた
少し私が思っていたのと違い、Qさんはすっかり考えを固めているようです。
このまま放っておくとQさんはMさんを呼び出して暴力を振るい、ねじ伏せかねない勢いです。
Mさんには「個人間の問題だから自分で解決しろ」と切り捨てましたが、さすがに暴力を振るうと宣言をしている社員をそのままにしておくわけにはいきません。
- 「カタをつける」という表現がとても気になる。私には「Mさんを呼び出して暴力を振るう」というふうに聞こえるが理解が間違っているか?
するとQさんはふてくされた様子で答えます。
「どんな風に理解してもらっても構わないですよ」
中高生ではあるまいし、子供じみた話にだんだん腹が立ってきました。
空手の関東大会優勝とか、過去に反社会勢力と関係があったとか、背中に刺青が入っているとか一切関係ありません。
このプロジェクトでなんとか引き続きQさんに仕事をしてもらうために、ない頭を絞っていたのにすべて裏切られた気分です。
怒りに任せて怒鳴り声をあげても良かったのですが、先日のMさんとの騒ぎを見るに、そのような切った張ったは彼の得意分野でしょう。
ここはあえて感情を押し殺し、冷静を装いつつ怒気を込めて伝えました。
- Mさんに腹を立てるのも分かるが、そんな子供じみたことをするのはやめてほしい
- それではMさんの陰口の通り、チンピラやヤクザと変わらない
- なんのためにこのプロジェクトに参加したのか?過去の経緯から仕事に就きづらくて、キャリアを積むためにもここにきたのではないか?
「チンピラやヤクザと変わらない」と言われたのが気に障ったのか、明らかに怒りに満ちた表情をしています。
「なんだと!?」
前のめりに私を睨みつけ、私に向かってくるのです。
結構な迫力で、正直怖かったですが、ここで負けるわけにはいきません。
多少殴られたところで死ぬわけではありませんし、Qさんもさすがに事務所内で暴力をふるうこともないでしょう。
「誰にものを言っているんだ?」
私も負けずに切り替えします。
1分ほどにらみ合いが続き、冷や汗が止まらない私でしたが、出来るだけ冷静なふりをしながら切り出しました。
- 中高生でもあるまいし、職場で何かあるたびに暴力で解決をしようとしたら、まともな会社で働くことはできない
- 暴力では解決にならず、訴えられたら事件になってしまうし、ますますまともな社会生活から遠ざかることになってしまう
- Mさんとのいざこざを暴力で解決しようというなら、責任者である私はあなたを許さない
無言のQさんに、私は続けて話します。
- 今回の件をきっかけに辞めるというなら止めはしない
- 普通の会社ならとっくに見限られている状況だと理解していると思う
- しかし、このプロジェクトは私がすべての雇用の権限をもっている
- Mさんとのいざこざの件、今日の私との面談で見せた子供じみた発言など、社会人としてまだまだ未熟だなと感じるが、真面目に仕事をしているのはわかっているので、まだやる気があるならチームを変えて働いてもらってもいいと思っている
すぐ頭に血が上り、口よりも手が先に出るような未熟な若造ですが、時折見せる素直さと、見た目と違う真面目な働きぶりは評価をしています。
なにより、いまこの職場で起こしているような社会人としてはかなり未熟な振る舞いを直さなければどこに行っても通用せず、そのうちにまた反社会勢力に戻ってしまいそうです。
そこまでQさんの面倒見てあげる義理もないのですが、外部人材のマネジメントをしていると年齢にかかわらず子供じみた振る舞いをする人が多く、その人達の親にでもなった気持ちになることがあります。
ビジネスという視点では甘いのかもしれませんが、Qさんとのかかわりが増える中で「反抗期の息子を持った親の気持ち」とでもいうような、少し達観したような気持ちも芽生えていました。
そんな思いはある程度伝わるのか、Qさんは徐々に態度を軟化させます。
- 自分でも社会人としてダメなことをしているのはわかっているので、そう言ってもらえるのは嬉しいが、正直Mさんと和解するのは難しいと思っている
- 手を出したのは自分が悪かったが、そもそも向こうが売ってきた喧嘩だし、自分から謝るのは違うと思う
やはり、Qさんもここでの仕事を辞めたいわけではなかったのです。そこで私から提案しました。
- 私が間に入って和解の段取りはつけようと思う
- 私はどちらの味方という気待ちはない。ただ、先に聞こえがしに陰口を叩いてきたMさんにも非があると思うので、MさんからもQさんに謝罪をしてもらおうと思っている
- ただし、手を出した時点でQさんの方が非が大きいと判断している。そう言った自覚が足りないのが、先ほど言った「社会人として未熟」という評価につながっている
- Mさんには「手を出したのQさんの方が非が大きいが、あなたにも問題があったのだからお互いに謝罪し、和解しなさい」というつもり
- もしMさんが私の話に納得ぜず和解が進まなければ、そのときはQさんの考え通り、ここを辞めたらいいのだと思う
- 和解がうまく進んだら、Qさんの方が非が大きいということを内外に示すため、Qさんを私の直属の部下として配属を変える予定でいる
「私の直属の部下」ということがピンとこないのか、少し怪訝な顔をしながらも、Qさんは次のように答えたのでした。
「わかりました。いろいろ世話かけてすみませんが、よろしくお願いします」
長くなりましたので、続きは続編とさせて頂きます。