【派遣会社営業マンのクレーム対応報告】毎朝のように通勤中にトラブルを起こして遅刻する派遣スタッフHさんのクレーム対応
私の担当スタッフとして派遣先のI社に勤務してくれている30代男性のHさんですが、スタートして1ヶ月も立たないのに、毎日のように遅刻するので注意してほしいというお客様からのクレームがありました。
その際の経緯や対応について、営業日報形式でご紹介します。
派遣会社営業マンが、どんな事を考えて問題解決をしているのかがお分かり頂けます。是非ご覧ください。
クレーム経緯
●30代男性のHさんは2週間前にI社で倉庫業務を行う派遣スタッフとしても就業を開始した
●Hさんは人当たりが良く、話しやすい印象の男性
●就業開始して2週間経ったが、ほぼ2日に一度遅刻している
●遅刻の時間は日によって違い、5分程度の時もあれば、3時間近くの時もある
●分単位の遅刻の理由は電車遅延、数時間の遅刻が3回あり、通勤電車内で他の乗客に絡まれてトラブルになって遅れたとのこと
●電車遅延は調べると数分の遅れであり、早めに自宅を出れば済むこと、通勤電車内のトラブルについては、本人は被害者なので仕方ないという話をするが、2週間という短い期間にそんなにトラブルが起こるものなのか?
●派遣会社はHさんの勤怠を把握しているのか?
●いずれにせよ、就業開始早々に、この頻度で遅刻が続くなら仕事を続けてもらうのは難しい
対応のポイント
スタッフへの対応ポイント
- お客様から聞いた勤怠状況、その理由を本人確認する
- その上で、遅刻理由を掘り下げる
- 再発防止のコミットと、その方法を確認する
- 通勤時の乗客とのトラブルについて、遅刻の原因というだけでなく、本人にもなんらかの責があるのかを確認する。つまり、通勤時に限らず、職場でもちょっとしたことで周りの方々とトラブルになってしまうような人物なのかどうかを見極める
お客様への対応ポイント
- 本人から確認した遅刻の原因と、再発防止策を報告する
- 通勤時の頻繁な乗客とのトラブルからみた、Hさんの人間性についてヒアリングの上での私見を述べるとともに、お客様の見解をヒアリングする
- 期限を設けて勤怠改善の検証を行う
- 勤怠改善ができなかった場合は契約満了をもって人を入れ替えることを約束する
対応経緯
Hさんとの面談
前述の対応のポイントをもとにHさんと面談を行いました。
- お客様より連絡があり、就業開始からわずか2週間の間に頻繁に遅刻をしていると聞いたが本当か
- 遅刻の状況とその理由を細かく教えてほしい
- 就業開始前の案内で、遅刻や欠勤の際は、必ず就業時間前に派遣先(就業先)と派遣元(派遣会社)に連絡をするようにお願いをしたが、連絡を頂けなかったのはなぜか?
いくつかの質問に対して、Hさんは次のように答えました。
- 就業開始から2週間、具体的には10営業日の間で、電車遅延による遅刻が4回、通勤時にトラブルに巻き込まれての遅刻が3回あった。
- 電車遅延での遅刻は5-10分程度、トラブルに巻き込まれての遅刻の際は警察に寄ったりと時間がかかり、1-3時間の遅刻
- 派遣会社に連絡をしなかったのは失念していたから。今後は気を付ける
遅刻を指摘されて、ふてくされたり、怒ったりといった様子もなく、当たり前のようににこやかに説明をされて少し調子が狂いました。
就業開始早々であり、私もまだHさんとの付き合いが浅いため、どういった方なのかが判断できず、いきなり強い注意に入ると素直に聞いていただけない可能性もあり、まずは通勤時のトラブルについてヒアリングをしてみました。
- 1回目は電車のホームから改札まで降りる階段の途中で自分のバックが若い男性に軽く当たり、反撃のつもりか若い男性に肘で強く押し返された。暴力を振るわれたと感じたので、止まるように声をかけたが、相手が逃げようとしたので、ベルトを掴み動きを止めた。その後口論になり、駅員も入って話し合いをしたが水掛け論になったため、すぐ近くの交番に移り、警察官立会いの下で話し合いをして、結局若い男性が加害者として謝罪をしたため解決とした。これにより遅刻3時間。
- 2回目は満員電車内で吊革につかまっていたが、後ろから故意に押してくる女性がいて抗議をすると口論になった。途中の駅で両者とも降車し、駅員を交えて話し合ったが平行線となり、お互いに出社もあるのでうやむやのうちに解散した。これにより遅刻1時間。
- 3回目は満員電車でたまたま席に座ることができ、狭い隙間だったが座ると、隣の年配の男性が「そんなに無理やり座るなよ」と文句を言ってきたので、「席が空いているんだから座るのは当たり前だ」と抗議したら、売り言葉に買い言葉で口論になった。途中の駅で両者とも降車し、駅員を交えて話し合ったが平行線となり、お互いに出社もあるのでうやむやのうちに解散した。これにより遅刻1時間。
うーん、ちょっと初めてのケースです。珍しくどう返していいか、答えに窮してしまいました。話を聞いていると、ディティールがしっかりした話なので、遅刻の言い訳ではなく本当の話のようです。
たかだか10営業日の間に、世の中のトラブルすべてがHさんのもとに集まったかのようですね・・・
3件の通勤時トラブルの詳細をヒアリングするのに1時間程度時間をかけており、ヒアリングの最中は否定をしたりすることなく、ひたすら聞いていましたので、そろそろこちらから切り替えしても良いかなと思い、次の質問をしました。
- 通勤時のトラブルによる遅刻の理由はわかったが、すべてにおいてHさんは被害者であったのか?自らトラブルを大きくするような言動はなかったのだろうか?
- この頻度で通勤時のトラブルにあっている人は見たことがないし、私自身も実体験としてない
- Hさんが悪いとは言わないが、ちょっと我慢したり、見逃したりすればトラブルにならないようなことを、相手の問題もあるかとは思うが、売り言葉に買い言葉で大ごとにしてしまってはいないか?
すると予想通り、Hさんは顔を真っ赤にし、鬼の形相で「私が悪いっていうんですか!!」と怒鳴り散らしてきます。
喫茶店で話をしていたのですが、周りの人達が全員こちらに振り向くような剣幕です。
あぁ、予想通りだなと。つまりHさんは感情の起伏が極端に大きいのです。しかも普段はニコニコと紳士な容貌ですので、そのギャップを奇異に感じ、より迫力が増します。
自分の言葉にさらに興奮するようで、最初は丁寧語だったのが乱暴な語調に、「○○さん」と私を呼んでいたのが、「あんた」に変わり、しまいには「お前」呼ばわりです。
このような興奮した相手や、乱暴な言動をする相手には次のような対応を心がけています。
- 「お前」呼ばわりなど乱暴な物言いをされた場合は、相手の議論に応じる前に、「私をお前呼ばわりするのはやめてください。あなたにそんな乱暴な物言いをされる覚えはありません。いまの乱暴な物言いを謝罪して頂き、話し方を改めてください」と謝罪を求める会話の流れを作り、相手の一方的な主張を封殺する
- 「興奮されて冷静さを失っているように感じるので、今日は一旦話を中断して、後日話しましょう」「あなたの興奮した乱暴な物言いに恐怖を感じるので、今日は失礼します」といったセリフで次の機会に改める
- それでも止められないようであれば、「私はあなたに恐怖を感じるので、この一方的なお話が続くのであれば会話を録音させてください」とボイスレコーダーやスマートフォンアプリで会話を録音することを話し、抑止する。「私はあなたに恐怖を感じるので」というセリフはあまり日常では使わない言い回しですが、その方が迫力が増し、相手への抑止力が強まります
- 最後の手段として警察を呼びましょう。「上司に相談をしないと・・・」と躊躇する方もいると思いますが、仕事よりも身の安全です
過去3回の通勤時トラブルも、この調子でやっていたのであれば、どちらが悪いとかは別にして、相手も怖くなって駅員を呼んだり、駅員も困って交番に連れて行ってということになるぁと妙に納得してしまいました。
かなり興奮した様子のHさんでしたが、興奮はしつつも私の反応を見ながら、つまり相手がひるんでいれば自分の一方的な主張を押し付けて合意を取り、既成事実にしてしまおうというような老獪さは垣間見えました。
そんな中で、「私をお前呼ばわりするのはやめてください。あなたにそんな乱暴な物言いをされる覚えはありません。いまの乱暴な物言いを謝罪して頂き、話し方を改めてください」というようなアプローチは初めてだったようで、面食らった様子でした。
その後、Hさんが何を言おうと「先ほどのお前呼ばわりを謝罪してください」の一点張りで10分位通したところ、かなわないと思ったのか「お前呼ばわりしたのは申し訳ない」と謝罪してきました。
形成が逆転したのを感じたので、次のように畳み掛けました。
- 今のやり取りで、過去3回の通勤時のトラブルも、Hさんが一方的な被害者ではなく、その後のやり取り含めてトラブルを助長したのではないかと感じた
- 今のやり取りのような乱暴な言動を派遣先で行わないかどうか、派遣元であり雇用主である身としてとても不安に感じた
- 今のやり取りのような言動が続くのであれば、今後も通勤時のトラブルは起こるだろうと想定でき、遅刻は減らないのだろうし、また電車遅延での遅刻の件も、お客様から聞いている遅刻日の電車遅延情報を調べたら、少し早く家を出れば間に合う程度であり、こちらも改善がなければ繰り返しになると懸念している
- Hさんがすべて悪いなどとは思っていないが、先ほどHさんがおっしゃっていた「私は全然悪くない」というスタンスでは円滑な就業継続は難しいと思っているが、Hさんはどう思うか?
「電車遅延を見越して早く出社しろというなら、その分時給はでるのか?」くらいは言ってくるのかなと思っていたのですが、Hさんは意外なほどしおらしくなっていて、「改善できるように頑張ります」と言っています。
過去にも経験があるのですが、この手の感情の起伏が異常に激しかったり、何かにつけて極端なことを言ってきて自分の意見を通そうとする人は、話し合いの末にこちらがアドバンテージを取ると、途端に従順になる人がいます。
Hさんもその口なのかもしれませんが、その後は至ってスムーズに話ができました。
Hさんと合意した内容は次の通りです。
- 就業開始早々に10営業日で7回の遅刻は異常事態であり、これ以上の遅刻は許されない
- 通勤時トラブルは相手の過失もあれど、10営業日で3度もそのような事態は普通起きない。自身にもトラブルを助長する要因があったと自覚し、そのような対応を慎む自覚を持つこと
- 電車遅延を見越して早めに出社をすることは社会人としての常識である
- 感情に任せての乱暴な言動を慎むこと
- 今後の就業で、これ以上の遅刻や問題行動などがあった場合には、契約更新は難しいことを理解する
大体思っていた通りの合意が取れました。
私としては、この危なっかしいHさんをこれ以上、今の派遣先で就業はさせたくないのですが、今日のやり取りをそのままお客様に報告するわけにもいきませんし、雇用契約も残っている中ですので、お客様には上記の合意をもとに様子を見てもらうようなアプローチをしようと考えました。
お客様への対応
Hさんと面談を行ったことを伝え、通勤時のトラブルによる遅刻については細部まで状況を説明した上で、本人から以下のようなコミットをもらったと報告しました。
- 就業開始早々に10営業日で7回の遅刻は異常事態であり、これ以上の遅刻はしない
- 通勤時トラブルは相手の過失もあれど、10営業日で3度もそのような事態は普通起きない。自身にもトラブルを助長する要因があったと自覚し、今後そのような対応を慎むと約束する
- 社会人の常識として、今後は電車遅延を見越して早めに出社する
私からの報告を受けて、お客様はだいぶ迷った様子でしたが、現在の派遣契約(=Hさんとの雇用契約)が残り1か月半あり、業界慣習上で契約満了の1か月前に行う更新確認面談を半月後に控えていたため、まずは半月の間様子を見て、その後の契約更新の有無を考えたいとのお言葉を頂きました。
私のホンネ
その後、Hさんは意外にも順調に就業を続け、今では勤続1年にまでなっています。
また何かトラブルを起こさないかと、私も様子が気になるのでちょくちょく顔を出すようにしているのですが、妙になつかれていて、特にいざこざはありません。
派遣業界は女性の営業職も多いのですが、たまたま私は男性同士だったからよかったものの、女性の営業担当であればHさんの剣幕に震え上がり、言いなりになってしまって、また別の結末だったかもしれません。
なんだかんだでお互い縁があったということなんでしょうから、今後もHさんの就業が順調に続いてくれるといいのですが。