【続編17】【派遣会社営業担当のクレーム対応報告】辞めたのに入館証をなかなか返さない派遣社員Kさんのクレーム対応
私の担当派遣社員としてT社で2週間前に就業介した30代男性の派遣社員Kさんですが、色々な経緯の中で派遣先のT社を契約途中で退職したのに、なぜか貸与されている入館証を返さないという状況が続き、派遣先からクレームがありました。
その際の経緯や対応について、営業日報形式でご紹介します。
派遣会社営業担当が、どんな事を考えて問題解決をしているのかがお分かり頂けます。是非ご覧ください。
対応経緯
O部長への訪問
Kさんの入館証廃棄の謝罪と経緯説明で訪問をしたものの、こちらからの詳細な経緯説明は不要というO部長。
T者側ですでに当社に対する本件へのペナルティーをどうするかの結論は出ていると感じた私は、このままで引き下がれないと用意していた顛末書とKさんの反省文を慎重にタイミングを図りながら差し出したのでした。
「そうか・・・そこまでやってくれたんだ・・・」
温度感の変化を感じさせるO部長の発言。
私の打ち手によってO部長の温度感が変わる・・・
もしかしたら本件の当社へのペナルティーの決定権はO部長が握っているのかもしれません。
「部長、今日は私なんかが一人でお伺いして申し訳ありません」
「上司とともにお伺いして、謝罪をさせて頂こうとも考えたのですが、まだこの件で御社が弊社に対してどのようにお考えかがわからなかったもので」
「上司とともにお伺いするのは、その御社のお考えを踏まえてからほうがよいと考えました」
今日の訪問に上司を連れてこなかったことを詫びることにかこつけて、T社が当社に対して今回の件をどのように決着をつけようとしているのかを確認します。
直接的に「今回の件のペナルティーはどのようにお考えでしょうか?」と聞くよりもスマートですし、もしかしたら私が上司を連れてこなかったことに不満を抱いていないかということも探りを入れることができるのです。
「いや、上司の方に一緒に来てもらうことに特に意味はないと思っているので」
そう答えるO部長の表情から真意を読み取ることができません。
しばらく沈黙が流れます。
経験の浅い営業マンは、このような沈黙に耐えきれず、つい口を開いてしまいがちです。
沈黙を埋めたいばかりに、不必要にこちらから譲歩をしてしまって相手にカードを与えてしまったり、相手の思惑と全く違うコメントを差し込んでしまい信頼を失うといった失敗をしてしまうのです。
沈黙も会話のうち、しばらく一緒に黙っていましょう。
1分も経ったでしょうか、やっとO部長が口を開きます。
「いや、今回のKさんの件では本当に迷惑を被ったと思っているんです」
「就業が始まってもまともに出勤をしたのは初日だけだし、来るか来ないかわからないから仕事も頼めないし教えられないし」
「おまけに突然来なくなって、入館証を捨てましたという話だし」
「部下からは、なんであんな人をと責められるし、上司には入館証の件で叱責されるしね・・・」
「今後御社と取引をする理由がないと思いませんか?」
いや、もう、おっしゃる通りです。
私がO部長と同じ立場であれば同じように思いますし、もっと叱りつけているかもしれません。
「Kさんはひどいものでした、まぁでも、あなたは色々骨を折って一生懸命やってくれたのはわかっています」
ん?少し風向きが変わりました。
「今日もこうして顛末書やKさんの反省文を持ってきているし・・・」
「上司からは御社との取引を止めろと言われているんですが、他にも御社の派遣社員は働いてもらっているし、あなたの努力に免じて取引停止にはしないように私から進言しておきます」
努力の甲斐もあって、一番心配していたT社との取引停止は免れそうです。
ただ経験上、O部長のこの話の運び方には油断ができません。
業者である私に「上司に取引停止はしないように言っておくよ」というからには、きっと上司からはもともとそこまでのペナルティーを課すように言われていないか、もしくは私と今日会うまでの中で上司に掛け合ってくれていて、既に「取引停止はしない」という言質をとっているに違いありません。
つまり、この後に「取引停止はしないけど、その代わりに〇〇してくれ」といった交渉が入るはずなのです。
私はコメントせず様子をうかがいます。
「その代わりと言ってはなんだけど、上司に話をする材料が欲しんですよ」
ほら、来ました。
「さっきも言った通り、Kさんが働いていた2週間はまともに仕事をしてもらっていなかったんです」
「むしろ教える手間で社員の稼働を奪っていただけで終わってしまった」
「この2週間分の請求を検討してほしい」
そう来ましたか・・・ただもっとふっかけられると不安に思っていた私は少し拍子抜けをしたくらいです。
Kさんの勤務した2週間(10日間)のうち、欠勤が5日間、遅刻が4日間。
痛い出費ですが、先方にかけた迷惑や、それで取引停止を免れることができるなから安いものかもしれません。
「かしこまりました。私では即答ができないので上司と相談をさせてください」
「ただ、御社では勤怠管理のWEBシステムを利用していて、勤怠情報は残っているのに、一切派遣会社からの請求がなく支払いの履歴がないというのは監査上で問題になりませんか?」
O部長は「あっ」といった表情を見せます。
「ご利用の勤怠管理システムは請求処理の機能まで一気通貫になっているので、もし問題なければ値引きの処理をしてお支払頂いた履歴は残すというような方法はいかがでしょうか?」
O部長は納得してくれ、その値引き率について上司と相談の上、早々に返答をすることを約束したのでした。
私の本音
Kさんの件ではO部長を始め、職場の皆様に多大な迷惑をかけてしまいました。
勤怠不良や早期退職といったトラブルは人材派遣でよくあることではあるものの、今回はそこに「入館証の故意による廃棄」というインシデントまでが重ねってしまい事態が深刻化しました。
根本的な原因は当社の人選精度の低さであり、安易に人材を派遣したことが招いた人災です。
Kさんの勤務していた10日間、実質5日間の割引については、結局5割の割引ということで決着しました。
T社は被害者ではありますが、Kさんの労働力という「サービス」は確かに提供されていたのです。
人材派遣は労働力を時間単位で提供するサービスであり、そこに成果物責任はありません。
「勤怠不良で来るか来ないかアテにもならず、さっさと辞めてしまって教えるだけ損をしたKさんの労働力」であっても、時間単位でサービスの提供されたことには間違いはなく、T社側もその辺りの事情は察していたようでした。
なんにせよ、やっと問題解決することができました。
もうKさんの自宅に通い詰める必要もなくなり、晴れ晴れとした気持ちで普段の生活に戻ることができるのです。