【続編④】【派遣会社営業担当のクレーム対応報告】「派遣先の社員から脅迫された!」と損害賠償を請求してくる派遣社員Jさんのクレーム対応
私の担当派遣社員としてD社で就業スタートしたばかりの40代女性の派遣社員Jさんから、「派遣先の社員から脅迫された!」という訴えとともに、派遣先と当社を相手取って損害賠償を請求するというトラブルがありました。
その際の経緯や対応について、営業日報形式でご紹介します。
派遣会社営業担当が、どんな事を考えて問題解決をしているのかがお分かり頂けます。是非ご覧ください。
対応経緯
派遣社員Jさんとの面談
Jさんと話し合いをはじめて30分程度、ここまでのやり取りの中で私はJさんを「いわゆるクレーマーの類で、何かしらの理由を見つけてごね得を得ようとしている人」であると判断しました。
それが正しければ、彼女はなんらかの落とし所を持っているはずなのです。
こちらからはできるだけカードを切らないようにしながら、Jさんの考えを引き出したいと思います。
「Jさん、何度も聞きますが、Jさんはスタートして2週間目のこの職場で、どんな被害にあったんですか?『脅迫された』というからには相当の被害だったんだったと思いますが・・・」
私からの問いかけにJさんは苛立った様子で答えます。
「ですから、社員のFさんが引き継いだばかりで右も左もわからない私に、『いいからとりあえずやってみてください』言ったんです!これが脅迫です!」
「なるほど、それは場所としてはどこで言われたんですか?密室ですか?威圧的に言われた?」
「職場で言われました。みんなの前で威圧的に。」
「Jさん、お聞きした話では『脅迫された』ことにはなりませんよ」
「Jさんのおっしゃる『脅迫』云々とは別問題として、その社員のFさんが威圧的に指示をしたかどうかは先方に確認をして必要があれば抗議をします」
「Jさんが『脅迫された』と感じてらっしゃるのはご本人の主観の問題なのでご自由なんですが、『そんな仕事はまだ一人ではできない。それでもやれというのは脅迫ですか!?』って職場でその社員のFさんに反論されたんですよね?」
「それって社員のFさんの出方によっては名誉毀損と言われかねませんよ。Jさんが職場で威圧的に指示をされたということが納得いかなかったように、その社員のFさんだって職場で部下であるJさんから『脅迫』だなんて言われたら、かなり立腹されると思うんですよ」
ここまでの話で私はJさんに対して次のような整理をして話を伝えたつもりです。
- Jさんのいう社員Fさんの業務指示は脅迫にはあたらない
- ハラスメントという観点もあるので、社員Fさんが威圧的であったかどうかは派遣先に確認し、事実であれば抗議をする
- Jさんが職場で社員のFさんに対し「脅迫だ」というような発言をしたことは、逆に社員Fさんから「名誉を毀損された」と訴え出られても仕方のないことだ
つまりJさんの言う「社員Fさんからの脅迫行為」は完全に否定し、論点から外しました。
その上で、私がJさんの訴えを受け止めるとしたら、社員Fさんの業務指示の仕方に問題がなかったかということのみであることを伝え、新たな観点として「逆に名誉毀損で訴えられかねませんよ?」という投げかけをしたのです。
「なんですか、それは!!話にならないです!!そうやって派遣会社は弱い者いじめをするんですね!!」
また金切り声をあげるJさん。
たまたま会議室を通りかかった人が驚いたようにこちらを見返しているのがくもりガラス越しにもわかります。
「Jさん、さっきも聞きましたが、Jさんのおっしゃる『弱い者』ってなんでしょうか?概念的すぎてどうお答えしたらいいかわかりません」
「だから派遣会社は搾取ばかりして、働く派遣社員のことをちっとも守ってくれないってことです!!!」
ますますヒートアップするJさん。話し始めて小一時間も経ちましたし、Jさんの金切り声にそろそろ「あの会議室の中は様子がおかしい」なんて話が出ているに違いありません。
「Jさん、そんな論点で話をしていませんよ」
「そろそろ1時間くらい経ったので、この会議室を使っていていいのかB課長に聞いてきます」
「私はこの話の結論がないまま職場に戻るのは良くないと思っていて、その点も踏まえてB課長と話してくるので、ちょっとここで待っていてもらえますか?」
B課長との下打ち合わせ
「○×△・・・!!!」
なにやら文句を言っているJさんを会議室に残して、少し離れた場所からB課長に電話をします。
「B課長、いまもJさんと話しているんですが、ずいぶん時間が経ってしまったので一旦ご報告でお電話をしました」
「本人の話を聞くに、御社のFさんから受けた指示が脅迫的であったという主張なんですが、話が平行線で、だからどうしてほしいという結論部分までたどり着いていません」
「このまま職場に戻すのもどうかと思いますし、会議室を借りたままにするのもどうかとも思いまして、今後の対応をご相談させて頂きたいのですが・・・」
「私としては今日はこのまま私が彼女を預かって、彼女が今後どうしてほしいのかを確認した上で、今後の就業について改めて課長にご相談をさせてほしいと思っているんです」
B課長としては渡りに船だったのかもしれません。二つ返事で了解を頂きます。
「わかりました。確かにJさんがどうしてほしいのかわからないのでは、職場に戻しても同じことの繰り返しになっちゃいますもんね」
このタイミングでいくつか交渉をしてしまいましょう。
「それで課長、2つほどありまして」
「1つはJさんの言う社員のF様からの業務指示の件なんですが。真偽は別として本人からパワハラうんぬんと主張された場合を考えて事実確認をしておいた方がいいと思うんです。ご確認をお願いしてもよろしいでしょうか?」
B課長は承諾をしてくれます。
「もう1つが今日の勤務の件なんです。Jを私が預かって問題解決の面談を行うわけなんですが、本人からすると『なんで職場に戻って仕事をしてはいけないんだ』って主張になると思うんです。これから行う面談を御社からの業務指示という形で本人に伝えてよろしいでしょうか?」
「わかりました。それでいいですよ。あと、勤務はしていないけど、ウチの業務指示で面談をするっていう話なら、勤務としてつけてもらっていいので」
B課長、派遣社員が多数いる部署の課長だけあって、トラブル慣れをしているようです。
B課長に先回りされてしまいましたが、次のような背景があってのやり取りなのです。
- この後の問題解決面談にJさんが応じない可能性がある
- 私との面談をD社の業務指示であると伝えれば面談に応じる可能性が高い
- 本来は勤務していないので、面談時間分は当社からD社に請求できない
- 請求は勤怠システムと連動しており、面談時間分が請求できない=勤怠システムにその時間を入力できない=面談はD社から勤務として認められていないので、D社からの業務指示ではなかったというJさんからの反論につながる可能性がある
- よってB課長は面談時間分も勤務として認めると承諾してくれた
これで満を持してJさんと面談をすることができそうです。
長くなりましたので、続きは続編とさせて頂きます。