【続編④】【派遣会社営業担当のクレーム対応報告】「Excel基本操作」をめぐって両者の意見が食い違う派遣社員Kさんのクレーム対応
私の担当派遣社員としてD社でスタートしたばかりの30代男性の派遣社員Kさんですが、派遣先から「Excel基本操作はできると聞いていたのに全くできない!」というクレームがありました。
その際の経緯や対応について、営業日報形式でご紹介します。
派遣会社営業担当が、どんな事を考えて問題解決をしているのかがお分かり頂けます。是非ご覧ください。
対応経緯
派遣先R課長の無理難題から派遣業界の現状に暗澹とした気持ちになる
「契約を守っていないからすぐにでも人を変えてくれ」というR課長。
どうも話が前に進まないと訝しく思っていたら、そもそも彼の中ではKさんを入れ替えるという結論ありきの打ち合わせのようでした。
それにしても人材派遣を、派遣社員をなんだと思っているのでしょうか?
人材派遣とはいわば「雇用のリスク・コストのアウトソーシング」です。
人を雇うとなれば、雇用主は莫大なコストとリスクを背負います。
コストは給与だけではありません。年金・健康保険・雇用保険・労災保険などの保険料、有給だって付与しなければいけません。
コストはお金だけではありません。給与計算や保険に関する事務処理、働き方改革で有給取得は取らせなければいけないものになり、雇用主がその管理簿を作成しなければいけなくなりました。つまりは管理コストです。
さらには雇用のリスクです。
正社員であれば余程のことがない限り解雇はできません。パート・アルバイトや契約社員だって、その契約期間内に辞めさせることなんてできませんし、何度も契約更新をしているようであれば、契約更新をしないとする「雇い止め」は正当な理由がなければ簡単に認められるものではありません。
つまりは正当な理由がなければ辞めさせることはできず、雇い続けなければいけないというリスクです。
また人の集まりである会社では、どれだけお互いに配慮をしても何かしらのいさかいは発生してしまうものです。
何かあればすぐにハラスメントと言われてしまう昨今、労務トラブルは日常的に起こります。
いったん労務トラブルが発生すれば、その対応には多くと時間と人員が必要とされるのです。
ざっと考えただけでも一人の人間を雇用することにより、雇用主には様々なコストやリスクが発生することがわかります。
人材派遣でいう雇用主は派遣会社。これらのコスト・リスクはすべて派遣会社が負います。
下の図を見てみてください。
一般財団法人 人材派遣協会のホームページから引用した人材派遣の原価構造をグラフです。
固定された費用
- 派遣社員賃金
- 社会保険料
- 派遣社員有給休暇費用
これらの固定された費用だけで、その派遣社員の分として派遣先から支払われた金額(売上)の85%が使われてしまいます。
変動する費用
- 派遣会社諸経費
- 営業利益
前述した給与計算などの事務処理コストや、派遣をするにあたってスタッフを有期雇用するにあたっての雇用のリスク(雇用をし続けなければいけないリスク、労務トラブルのリスク)は派遣会社諸経費でまかなわれます。
営利企業で一般に営業利益率が1%台というのは薄利もいいところで、人材派遣は全く儲からない業種になっています。
このような厳しい利益構造の中で、派遣先の「おたくの派遣社員なんだから雇用主としての責任を果たせ」という主張や、派遣社員の「派遣会社はフォローが足りない」といった主張は過剰なサービスの要求であると言えます。
例えれば「牛丼屋さんでホテル並のホスピタリティー溢れたサービスを求める」ようなもの。
派遣先と派遣社員の両者が対価に見合わないサービスを求めるほど、派遣会社はどこかで収支の辻褄を合わせるしかありません。
つまりは派遣先には請求金額を高く要求し、派遣社員にはこれまでよりも低い時給を提示するといったことです。
それでは人材派遣というサービス自体に魅力がなくなってしまうため、人材派遣業界はM &Aや事業譲渡などにより、品質は変えずに規模で利益を出す方向に向かっているのです。
派遣先R課長への反論開始
だいぶ話が脱線しました。
要するに私は、R課長の「契約を守っていないからすぐにでも人を変えてくれ」という要求に私は全く納得していません。
「・・・R課長、今回の件はExcelスキルだけの問題ではないと思います。仮にそうだとしても、Excelの基本操作でしたら、私がKに教えてできるようにすればいいことですから、それを持って契約が守られていないので人を変えろというのは難しいかと思っているんです」
「他の業務で支障は出ているんでしょうか?例えば専用システムを使っての社内決済ですとか、社内外とのメール対応ですとか・・・」
R課長は私からの反論が気に食わないのか憮然として答えます。
「いや、まだ他の業務はやらせていないからわからないですよ。でもExcelを使っての簡単な集計と見積書の作成はできていないわけですから契約は守られていないですよね!?」
この課長、なかなか一筋縄では行かなそうです。