【4-1】朝の連続派遣小説『へばりつく』

【4】

「私も打ち合わせに同席するんですか?」

清水敦子が仲田幸子達の新たないじめのターゲットになったことはわかっていた。どうやら清水が派遣会社に相談をしたようで明日打ち合わせがあると言う。

「そうだよ。君の部下じゃないか」

上司の長村は薄くなった頭頂部の地肌が透けて見えるのを気にしてか、髪型を整えながら億劫そうに話をする。

向かい合うように縦一列に並べられた机の島の一番奥にあるひと回り大きなデスク。課長である長村の席だ。背後には大きなはめ殺しの窓があり、閉じられたブラインドの隙間から陽の光が線になって差し込む。

本人は気がついていないのかも知れないが、時間帯によって彼の薄くなった頭頂部が照らされていることがあり、オペレーターからは「後光がさしている」と陰で馬鹿にされているようだ。

弱い者には強く強い者には弱い、部下の手柄は自分の手柄、部下の失敗は部下の責任と、漫画にでも出て来そうな小狡いタイプの人間で皆から嫌われている。

もちろん私も嫌いだが、実力なくイエスと言うだけの私をSVに引き上げてくれたのは彼だった。彼もそれを強く意識していて、とにかく面倒ごとを押し付けてくるのだ。

「いえ、でも私は派遣ですし・・・」

長村の周りの席はちょうど昼休憩の順番が回ってきたようで人気は少ない。ノック式のボールペンの芯をカチカチと出したりしまったりする音が思いのほか大きく聞こえる。彼がイラついているときのクセだ。つい反論をしてしまったがやめておいた方がよかったかもしれない。

「町丘君、君は派遣かどうかは別として彼女達の上司なんだろう?管理監督責任があるってことじゃないか。話の主体は私がやるからSVとして当事者であるオペレーター達の様子を話してくれればいいんだよ」

まずい。どうやら彼のスイッチを入れてしまったようだ。いつもの調子ならここから一時間以上捕まりかねない。

「もうこんな時間か。私は会議に出なければいけないから明日の打ち合わせに備えて、彼女達がどういう状況でどうするべきかをまとめて今日中に私にメールをしておいてくれ」

言いたいことだけ言い終えると長村はさっさと会議室に向かって行った。長々とした説教に捕まらずにすんでホッとする反面、「派遣かどうか別として」とはどういうことだと頭に血が上る。三ヶ月ごとにクビを切られる不安を抱えながら、なんで管理監督責任まで押しつけられなければならないのか。

翌日の午後1時、町丘は長村と共に会議室に向かっていた。

昨晩のうちに長村に送っておいた報告メールの内容に朝一番から散々ダメ出しを食らった。先々何かあったときのために部下にできるだけ責任を押し付けておくのが彼のやり方なのだ。

「いつもお世話になっております。ヒューマンソリューションの田中と申します」四十代前後だろうか。落ち着いた雰囲気の営業マンと名刺交換をしてから席に座る。

派遣会社の営業マンはとにかく適当というか、いい加減な奴が多いという印象しかない。お客にはヘコヘコ頭を下げるのに、派遣社員には話をはぐらかしたり、平気で嘘をついたり。私の担当の営業マンは二十代半ばの男だが、学生のノリを引きずったレベルの低いやりとりに辟易して「連絡はメールのみにしてください」と宣言してから一年になる。

「すみません、お忙しいところ弊社の清水の件でご相談のお時間を頂きまして」

慣れた調子で話を進めていく。よく名刺を見たら課長とあった。なるほどそこそこ力のある営業マンなのだろう。

「だいたいのことはうちの町丘からも報告を受けていますよ。どうだい、町丘君」

上司と社外には愛想の良い長村がわざとらしいほど紳士的な笑みを浮かべながら私にバトンを渡してくる。

「はい、清水さんのことですがSVとして彼女達を見ている中で最近少し様子がおかしいなとは思っていました。私の管理不足で恐縮なんですが、ちょっとクセのあるベテランの派遣さんがいまして・・・」

普段言われてうんざりする「派遣さん」という単語が自然に口に出た自分に驚きながら話を続ける。

「清水さんは勤怠も良くてコツコツと安定して仕事をしてくれる方なのですごく助かっているんです。チーム内の人間関係で彼女を失ってしまうのは残念なので、なんらかの対応をしたいと思うんですが、ご本人は何かお望みのことはあるんですか?」

朝から事細かに長村の指導を受けたセリフをよどみなく話し終える。こんな話、自分で言えばいいだろうに、役割分担が上手くいっていると長村はご満悦の表情だ。

「ご配慮を頂きましてありがとうございます。本人と話をするなかでは今の御社でのお仕事にはとてもやりがいを感じているようで、ずっと続けていきたいようなんです」

「それはありがたいですね」という長村の合いの手から一拍おき、田中は少し声のトーンを落として話し続けた。

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