【22-1】朝の連続派遣小説『へばりつく』

【22】

「本当だろうな」

甲田とは付き合いが長いが、奴は調子がいいというか、小狡いところがある。高校の同級生から付き合いが始まり、学部は違うが同じ大学に通った。確か一緒にアルバイトもしたこともある。仲がいいと言われれば確かにそうだが、昔からどうにか俺を都合のいいように利用してやろうとする気配を感じて一歩引いた付き合いをしている。こういうのを腐れ縁というのだろうか。

学部は違ったが共に一流と言われる大学に入学し、甲田は大手総合商社に、俺は大手ゼネコンに就職した。家業を継ぐため、社会経験を積むのが目的だったから五年ほどで退職し、いまは家業である内装会社の社長を務めている。

親の代で起業をし、二十年ほどの歴史のある会社だが、それほど経営状態がいいとは言えなかった。数年前に体調を崩した親父は昔からの取引先との仕事を何より重視していて、経営とは与えられた仕事を忠実にこなすことと、夜の接待や付け届けで相手の歓心を買うことと考えているように見えた。

安定した経営のためにはそれもいいだろう。ただ成長がない。以前ゼネコンに勤めていたときに精力的に広げていた人脈を手繰り寄せ、古いマンションをリノベーションして販売するベンチャー経営者とつながった。信頼できる施工会社を探していたようで、年齢も近い若手の経営者同士で意気投合し、仕事を回してもらえるようになった。おかげで売上は右肩上がり、従業員も三人しかいなかったところを十数人まで増やし、順調に事業を拡大していった。

成熟産業のこの業界で若い経営者はどうしてもナメられる。学生時代にラグビーで鍛え上げた体躯は相手に威圧感を与えるには充分だったが、経営者としての貫禄を求めてわざと老けて見える服装を選んだり、髭を生やしてみたりしたものだ。俺も今年で三十二歳。そろそろ家庭を持っても良い年齢だ。

昔は結構モテた。というより女に困ったことがなかった。最近は女の気持ちに寄り添ったそぶりの優男が人気のようだが、父譲りの男尊女卑を地で行く俺のような人間にも一定のニーズはあるようで、勝手に女が寄ってきた。とはいえ、そんな女たちを邪険に扱っていたわけではない。強さを象徴するような俺の体躯に魅力を感じている女もいれば、独善的であることと紙一重の迷いのない態度を勝手に男らしさと勘違いして惹かれる女もいた。

男に尽くしたいというようなそぶりをしながら、その実、従順に男に尽くしている自分に酔っているような女ばかりだった。そういう意味で俺は身勝手に振る舞っているように見えて、彼女たちの要望に応えるような言動を心掛けていたから、ひたすら与える側であったと言える。

甲田と久しぶりに朝まで飲み明かしたときに、もうそんな女には飽き飽きだと愚痴ったのだった。

「お前、その歳でそんな枯れてどうするんだよ。最近ヤってないのか?」

「そうだな。ここ数年は仕事ばっかりで女っけはなかったな。仕事柄新しい出会いもないし」

「じゃぁ、今度紹介してやるよ。合コンでもやるか。どんな女がいいんだ?」

「本気で言ってるのか?合コンって、お前もう結婚してるだろうが」

「なに言ってんだよ。総合商社なめんなよ。既婚だろうがなんだろうが、ちょっと声かけたら女なんてすぐ集められるぞ」

「いやいや、だからそういう風にチャラチャラ集まってくる女にうんざりしてるんだって。そういうのとは遊び尽くしたから、いまさらな」

「じゃぁ、あれか?結婚相手でも探してるってことか?」

「まあ、そうなるのかな。年齢的にもそろそろ結婚したいなとは考えてたんだ。この歳で社長やってて、油断してるととにかくナメられるんだよ。家庭があるっていうのはジジイ達からすると信用につながるらしくてな」

「そうか、うちの業界でもなくはないけど、そこまで深く考えたことはないな。俺の周りなんて、いかに若い女とやるかしか考えてないぞ、みんな。いいぞ若い女は。肌の質感が全然違うんだよ」

「お前らみたいな不良サラリーマンがいるから世の中良くなんないんだよ」

「なにいってるんだよ、お前だって学生の頃、めちゃくちゃだったじゃないか。当時はホント評判悪かったんだぞ、お前」

一ヶ月後に開かれたホームパーティーで出会ったのが敦子だった。

甲田は数年間の海外勤務経験がある。子供が就学前だったこともあり家族で転勤したらしい。甲田が赴任したのはインドネシアだったから、奥さんや子供たちも大層不安だっただろう。思うことは皆同じのようで、現地には主に大手企業を中心とした日本人家族のコミュニティーがあるのだそうだ。

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