【22-2】朝の連続派遣小説『へばりつく』

今日のこの集まりは、そのとき仲良くなった数家族がそれぞれ何人か知り合いを連れてきて、交流を深めつつ人脈を広げるという主旨のものだった。ホストは甲田で、住まいであるタワーマンションのパーティースペースを借り、ケータリングで料理を頼んだようだ。出来上がった料理だけでなく、シェフも派遣されてきて、目の前で出来立ての料理を振る舞ってくれる。

こんなドラマみたいな集まりがあるのか。いくら大手企業のサラリーマンとはいえ、誰もが高い給料をもらっているわけではないのだろうから、ここに集まっている面々は有能で順調に出世をしている奴らなのだろう。

名だたる大手の将来有望な男たちと人脈を広げられ、さらに出会いを求めた男女も参加しているようだから、俺にとってはうってつけの催しだ。それにしても甲田は巧みに立ち回る。総合商社では今日のように人と人を結びつけていくような力量が必要なのかもしれない。奴の生来のずる賢さを存分に活かせるフィールドだと言える。

ひとしきりのビジネス的な挨拶を終え、会場の窓際で一息つく。子供たちも参加している今日の集まりはお昼から始まった。ひとしきり食事を終えると子供たちは隣のキッズルームに移り、羊の群れのように一ヶ所に固まってなにやらゲームでもやっている。

はめ殺しの窓ガラス越しに外を覗くと、そろそろ陽が落ちてきて、うっすらと赤みを帯び始めた。長丁場のこの集まりもそろそろ終盤だろう。ガラスに反射した室内の風景を見ると、対角線上の壁面で所在なさそうに佇んでいる女がいる。

「なあ、あの子って、誰かの奥さんか?」たまたま通りかかった甲田に問いかけた。

「ああ、あの子か。ウチの会社の事務の子だよ。独身だって聞いたから連れてきたんだ。なんだ、ああいう弱々しいのが好みのタイプなのか?確かに可愛いんだけど、ちょっと陰がある感じだよな」

「好みってわけでもないけど、ちょっと気になってな。じゃあ声かけてみるか」

間に入ってやろうか?という甲田の申し出を断り、ツカツカと女のもとに向かう。

「すみません、いいですか?お声がけして」

彼女は少し怯えたように俺を見た。身長は150センチくらいだろうか。身長差が30センチくらいあるから見上げるような格好だ。

「あ、はい」消え入るような返事をする。

「甲田の会社の方なんですって?彼とは学生時代からの付き合いでして。同じ職場で働かれているんですか?」

「ええ、甲田課長のところで事務をしているんです。今日は課長にお誘い頂いて何人かの同僚と来ているんですけど、あんまりこういう場に慣れていなくって・・・」

「じゃあ、あぶれたもの同士お話ししましょうか」そんなことをきっかけに敦子と付き合うことになり、早々と一年後には結婚をしたのだった。

彼女はこれまでに付き合ってきた女達とは全く違うタイプだった。色々な女がいたが、どちらかというと肉感的なタイプが多かった。彼女は色白で目鼻立ちも整っているが、まるで中学生のように小さくて起伏のない躰つきをしていたし、性格だって大人しくて、これまでの女達みたいな華やかさは感じない。

学歴もなく片親でもあり、両親や親族にはずいぶん結婚を反対された。それでも彼女を選んだのには理由があったのだ。

彼女は白紙の答案用紙のようだ。二十代にして人生にあきらめのようなものを感じさせるし、多くを望んでいない。自分というものを全く感じさせない。その危うさが、ふっと息を吹き掛ければ消えてしまいそうな儚さが、俺にとってある意味、性的な魅力につながっている。

今まで会って来た女は美しさと若さを武器だと思っている奴が多かった。男の歓心を煽るような服を着て、美しさを磨き上げて。そんな女は金さえ払えばいくらだって買えるのだ。自らに賞味期限をつけて棚に並べるような真似をする女と一生一緒にいるなんてまっぴらごめんだ。十年も経てばブクブクと肥太って、少し低くなった声で老いへの呪いを吐き続けるに決まっているからだ。

今まで一人の女と長く続いたことはなかった。見た目は悪くないのにそれを武器にしようとする気配もなく、物陰にじっと身を潜めて何事もなく生きていこうとしているような女。こいつの心の奥底には一体なにがあるのだろうか。

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